久しぶりに、本当に久しぶりに東京でそんな鮨屋を見つけた。店主の名前を岡正勝という。年の頃は34、5であろうか。見るからに根性がすわった、やんちゃそうな表情をしている。目が生きている。神泉「小笹鮨」、佐々木茂樹の若い時を彷彿させる。肉の「かわむら」の河村太郎もそうであるがいい料理人はいい魚のように目がいきている。しかし接客マナーも完璧である。決して偉ぶらない。大きな事を言わない。返事がいい。最初に、「宜しくお願いします。」という挨拶から仕事が始まる。
仕事はいたって丁寧で繊細である。また、いわゆる江戸前の仕事を継承しながらも、新しい鮨にチャレンジしている。例えば、あなごをレアーで堂々とだす。今までに無いあなごを楽しめる。ブリのずけは、ずけ=まぐろの常識を変える。ずけは香ばしく炙ってあり、味わいがとてもよい。鮨メシの酢加減が小生の好みと一致している。いわゆる薄目の酢加減である。よって〆たネタの酢加減も薄めである。鮨は今風の小さめである。しかしなかなかしっかり握れている。形がとても良い。鮨は形が大事である。良い鮨は見た目に美しい。後は良い白身を仕入れる事であろう。まあ東京の客は白身が無くても良いのであるが、京都の私からすれば一品はいい白身が食べないと始まらない。これで、夏はいい「ほしがれい」、冬は関西の「鯛」を一本持っていれば最高である。
焼酎も中々旨いものをそろえてある。「特蒸泰明は兼八」に似た味わいと香り。少しさっぱりしている分、鮨に合う。魚に合うようである。
岡正勝は去年独立し、この店を作った。四谷の名店「すし匠」で修行されてその後、色々なお店をまわったそうである。彼いわく、「色々廻った経験がよかった。自分が良いと思っていたことが間違っている事や、他のやり方がある事を知った。」この言葉は仕事には一番大切である。常に満足せずにどれだけ自分が築いたものであっても他によいものがあればそれを受け入れる度量。これが大切である。
このお店はなんと営業時間が18:00から夜中の3:00までやっている。最初の一年間は、休みなしで営業したそうだ。一年を迎えて初めて、月曜日を休みにしたそうである。そんなことを口で言っても中々できるもんではない。彼は、3:00から仕込みをする。そして寝ずに、朝6:00に築地に入る。帰って寝るのは多分、朝の10:00頃。5時間ほどの睡眠で365日やったという事だ。感動した。これほどの仕事人であっても自分が親方で新しい店を立ち上げるというのは大変だという事だ。新しいビジネスを立ち上げるという事はよほどの覚悟がないとできないのである。腕とソロバン。そして何より大切な「パッション(情熱)」がすべてを作るのである。どんなビジネスにもそれがなければならないのである。
日曜日もやっていて3:00までやっている鮨屋をしっているなんてなんと心強い事であろうか。場所も守備範囲である。しかし3:00までというのはある程度で卒業して頂きたい。そりゃ体がもちまへんで、あんちゃん。まあ10:00までに入店、ぐらいがいいのではないでしょうか。若いうちはいいがあっというまに年を取るから。それに長く続けてほしいからねえ。
多分、このお店は1,2年以内に東京でももっとも予約が取るのがむずかしい一軒になるだろう。そうなると又、いけなくなるんだよなあ。シゲちゃんの店や「かわむら」のように。でも応援したくなる店は勝手に応援してしまう。(本当に勝手でごめんなさい。)
この男の、10年後の鮨が今から楽しみである。
山村幸広
PS 3月7日~11日 J-WAVE 21:50-22:00 小山薫堂さんの番組に出演いたします。
お暇ならどうぞ。
【関連リンク】
