この日の料理も素晴らしい味付けである。鱧(はも)も、もちろん良い時期とはいえ、完璧な骨ぎりと火加減である。いつも王道のシンプルな料理が続くが完璧な味付け故、はずす事がない。決して、今の料理屋に多い、奇をてらった事はしない。美味しいからできる業である。この日は名物のご主人はいなかったが味になんの変わりもない。美味しいものがでてくるであろうという完全な安心感の元、料理を待つのはとても愉しい。コース料理で全品が満足できるものを出す店は、実は少ない。
以前にもご紹介したが、東京風、京料理である。ご主人が東京で長年やってこられている。東京人の為の、東京の味付けの京料理なのである。ご主人の父上も大変有名な料理人であったそうである。最初はご苦労もあったようであるが今や東京を代表するお店である。京都に行ってもこれぐらい美味しい店はほとんどない。京都人の小生が保証しよう。少し話は脱線するがこちらのご主人がイチオシの京都の和食屋は「あじはな」さんと言う。京都は南座裏の小さなお店である。しかし野菜の煮物、お椀等、とてもシンプルであるが最高に旨かった。日曜日もやっているのが嬉しい。しかしこちらは本当にシンプルな京料理。派手な京料理をイメージされている方はいかない方がよい。味だけを追求する方にはお勧めする。
こちらの愉しみは何と言っても、最後のシメの鮭はらすごはん。あの有名な、「ますのすけ」を使われている。ますのすけはキングサーモンの一種であるので厳密には「鮭」ではない。北海道の鮭も旨い。しかしキングサーモンにはかなわない。それはアラスカでも、ノルウエーあたりの北欧であがるキングサーモンであってもだ。キングサーモンの本当の旨さに鮭はかなわないのである。
このますのすけをじっくり焼き上げて、身をほぐしご飯にたっぷりとかけてある。そして皮を焼いて、それを細かく刻んでまぜて出てくる。あれだけ食べた後なのに、何杯でも食べたくなる美味しさである。鮭は身より皮が旨い。キングサーモンは皮も身も最高なのである。
この日も、「松茸ごはんと鮭はらすごはんがありますが、どちらにしますか?」と聞かれた。もちろん「松茸ごはん」も美味しいであろう。でもここではあの鮭はらすごはんを食べなければシメられない。究極の選択であるが、「鮭はらす」を選んだ。そしていっきにかきこむ。旨いーーーーー。なくなった頃に声がかかる。
「おかわりをどうぞ。」
「すいません。お願いします。」
3杯は食べれるが、今日は2杯で遠慮しておこう。一度、これだけを食べにきて、食べて帰りたいもんである。
そして最後に目の前で作られる、「葛きり」。作りたての旨さが引き立つ。そして蜜の甘さの押さえ加減がとても旨い。
このお店を知っているという事は自分にとっていかに財産であるか。素晴らしい。旨い店は決していばらない、気取らない。美味いもんだけをだまって食わす。
「京味」は、間違いなく日本を代表する名店である。日本の財産である。
山村幸広
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