もう一つの東京の蕎麦屋の驚きは、「蕎麦屋で一杯飲む。」事である。関西では蕎麦屋で一杯飲む習慣は無い。もちろんうどん屋でも飲まない。でも東京の蕎麦屋ではそれができる。江戸時代には、天麩羅蕎麦を頼んで、天麩羅を肴に一杯やって蕎麦をたぐって帰るという飲み方だったそうだが、そこから発展したのであろう。蕎麦屋での肴には共通して「だしまき」がある。それに「そばがき」「天麩羅(小柱のかき揚や江戸前の穴子天麩羅)」なんぞを肴に飲む。又、東京の蕎麦屋は美味しい酒や焼酎をこだわって置いている店が多い。冬は麦焼酎の蕎麦湯割が合う。(最近はそば茶割も気に入っている。)そして締めに蕎麦をたぐって帰る。うーーーん、大人の、東京の飲み方である。
皆様にもきっとお気に入りの蕎麦屋が一軒はおありであろうが、私のお気にいりの一つに「竹やぶ」さんがある。こちらは私のオフィスの近くにあったのだが、六本木ヒルズのOPENに合わせて移転された。多分、美味しいので口説かれたのであろう。こちらの「田舎蕎麦」は本当に都会の洗練された田舎蕎麦である。何というか、せいろと田舎の良い所を合わせて出来たのがこちらの田舎蕎麦である。聞かなきゃ、「これが田舎?」って感じでしょうか。夜は早く売りきれる様ですので、できれば予約される方が良い。又、蕎麦懐石コースを注文されると頂く事ができる。そして日本酒は、新潟の「鄙願(ひがん)」。柔らかさが何とも言えない「そばがき」と頂けば、至福の瞬間が訪れる。もう一軒は、恵比寿の「翁(おきな)」さんである。最近はお邪魔していないが、深夜までやっている蕎麦屋さんは貴重である。しかしこちらでは何より、もし蕎麦が無くても日本料理屋で十分やっていける素材にこだわった美味しい料理を頂く事ができる。「御前蕎麦」と女将さんが仰る蕎麦を、筆舌し難い「のど越し」で頂く。お値段も少し張るが、満足感のほうが上の名店である。一番最初に予約をさせて頂いた時に、すこし遅れそうだったので、「10分遅れます。」と連絡をいれた。女将さんに、「お待ち申し上げていました。どんなに素晴らしい人が来るのか楽しみでした。今まで、平気で15分も30分も遅れるお客さんはたくさんいたけれど、10分遅れると電話を頂いたのは初めてです。」と偉く褒めて頂いて照れくさかったのを思い出す。「目黒一茶庵」さんが閉店されたのが悲しい。最初に東京の蕎麦のおいしさを知った名店であった。ご主人がご病気とお聞きしたが、誰かお継ぎになれなかったのかと残念でならない。その他のお気に入りは以下の通り。
白金「利庵(としあん)」
浜町「藪そば」
軽井沢「東間(とうま)」(日本一、包丁がたった、切れ味最高の蕎麦)
一杯1000円以下で、最高の料理(蕎麦も立派な料理である)を頂く事ができるみんなの蕎麦屋。これからもお世話になりたい。
山村幸広
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